ゆるーく法律するブログ

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刑法総論/各論 山口厚

今よりももっと若かった頃、他の分野の先生から薦められて山口厚先生の『刑法入門』という新書を読んで感激してしまい、すぐさま買いに走った思い出深い書籍である。こちらの新書については今は手元にないため、改めて感想を述べさせていただきたいところである。


さて、 山口先生の素晴らしさは私が語るまでもないが、今回紹介させていただく刑法総論/各論には、切れ味のいい文章もさることながら、端々に熱さが感じられ、じっとしてはいられなくなってしまうという魅力がある。レイアウトや装丁が素敵であることももちろんであるが、特に山口先生の文章の美しさには目を見張るものがあり、簡潔な言葉でこれほど的確な表現をすることができるのか、と唸ってしまう文が随所にある。誰のものとは知らず論文を読んでいて読みやすく素晴らしい文章だなと感じ、確認すると山口先生の論文であったということもよくある。


マニアックであると思われてしまうかもしれないが、特に好きな文には以下のものである。

生命の保護についての記述において、

受精卵を物として、器物損壊罪(刑261条)の規定によって保護すべきだとする見解が主張されているが、ヒトの生命は物ではない。

とされているところ。

また、強盗罪について、

 

究極の犯行抑圧手段としての殺人も「暴行」に含まれる

 

とされているところである。

また、他にも生命について記述されているところで、とても好きな文章があったのだが、後述のようにこれらの書籍は長年「封印」していたため、残念ながら失念してしまった。とても悔しい。
また出会うことがあれば追記したい。

 

残念ながらご本人から講義を受けたりする機会には恵まれなかったが、他の文献を読んでいる際にお名前や論文の引用を見かけてはさすが!と言わずにはいられないくらい、今でもこっそりファンでいるつもりだ。私にとって山口先生は刑法の楽しさを教えてくださった先生であり、また、山口先生のような美しい文章を書けるようになりたいと常日頃から思っている。


だがしかし、しかしながら、初学者や実務家を目指して勉強中の者は決してこの書籍を読んではならない。自らの経験を踏まえ、涙をのんで告げるが、踏み込んではならない領域である。
一部の頭のいい方にとっては何の支障もないどころか、刑法を楽しく深く学ぶことができて大変有益な書籍であると思われる。しかし、大半の人間にとっては残念ながら不利益になってしまうだろう。
山口先生の書籍の中には、通説、実務の見解とは異なる部分も多く、その旨記載されているため一応混同はしないのであるが、そもそも体系が異なっていることもあり、あまり不要なことまで学習するとかえって混乱してしまう方にとってはよろしくない。自らの力で通説、実務とどこがどう違うのか整理し、正確に覚え、使いこなせる方以外にとってはむしろ害になってしまいかねない。こういう方は、もっと無難な、というと大変失礼ではあるが、他に適した書籍があると思われるので、そちらの方から選ばれるとよいと思う。

私自身も当初は愛用させていただいていたのだが、残念ながら使いこなす能力がなく、泣く泣く「封印」させていただいた。もはや愛しているといっても過言でないほどのファンであるのにもかかわらず、山口先生の書かれる論文のすべてを正確に理解できるほどの能力がなく、残念である上、これほど好きであるのに上記のような理由で「封印」しなければならないことは本当に惜しい。
 実務家を目指しているのではなく、研究者志望の方や、趣味で読んでみたいという方にはもちろん全力でおすすめしたい。 


しかし、ここで朗報である。山口先生はご丁寧に、通称青本と言われる、通説、実務の見解を簡単にまとめた薄い書籍も執筆されている。こちらはすべての方にとって有益であり、自信を持っておすすめできる。細かいことはあまり書かれていないが、刑法全体を概観したり、総復習や記憶喚起にも使える優れものである。
 

長くなってしまったが、山口先生の素晴らしさを感じてくださる方が増えればと思う。私自身もこっそりと、しかし、強烈なファンで居続けたいと思う。